診療科・センター

人工関節センター

人工関節センターについて

患者さんに優しく、 かつ安全な高度医療を提供する。

岡山労災病院 人工関節センターでは上記の理念の下、MIS(最小侵襲手術)と呼ばれる手術に積極的に取り組んでおります。

これは一般的な人工関節手術と違い、手術に必要な皮切を最小限にとどめる方法で、術後の痛みが少なく回復も早いことから注目されている技術です。

概要

当センターには以下の4つの特徴があります。
  • 術後の痛みを極力なくし、早期の回復を目指しています。
    (無痛を目指す)
  • 最小侵襲(MIS)による人工関節を積極的に行っています。
    (筋肉をまったく切らない究極のMISも導入しています)
    【究極のMIS 事例】
    • 人工股関節
    • 人工膝関節
  • 安全で確実な手術を心がけています。
  • リハビリを長くしたい方には、リハビリ病棟の提供を致します。
    (最小侵襲手術によって術後2〜3週で退院できますが、希望者は術後1〜2ヶ月の入院が可能)
概要1
概要2
 
概要4
概要3
 

【MISの例】 79歳 女性
右人工股関節を約7.5cmの傷で手術を終えています。

詳細

<患者さんに優しく、かつ安全な高度医療を提供する>という理念を実現するために、具体的に取り組んだことを詳しくご紹介します。

1. 術後の痛みをできるだけなくす

 2000年から麻酔科の先生に協力をお願いし、人工関節手術の方は原則全例、硬膜外麻酔を入れていただいております。これは背中から直接脊髄に麻酔の薬を持続的に注入するという方法で、原則術後2日間程度痛みを取ることができます。痛みがまったく無いと言われる方もおられます。ところが、術後2日で硬膜外麻酔を抜去すると、従来の手術法ではまた痛みが強くなってリハビリができなくなる方がたくさんいました。

2. 最小侵襲手術の導入

 そこで、2005年から最小侵襲手術を導入しました。これにより、術後2日で硬膜外麻酔を抜いても痛みは以前とは比較にならないほど小さいため、痛みが強くてリハビリできないという事態を避けることができました。さらに、2006年5月からは筋肉をまったく切らない理想的な究極のMIS(人工股関節・人工膝関節)とも言える手術方法を導入しています。この方法が世界で発表されたのは2004年のことですから、世界に負けない高度医療を提供できていると自負しております。

最小侵襲(MIS)による人工股関節置換術の手術風景

最小侵襲(MIS)による
人工股関節置換術の手術風景

3. 安全で確実な手術のために

 ところで、このように小さい傷で大きな人工関節をきちんと本当に入れることができるのでしょうか?当然どなたにでもできるわけではありません。米国では80%の人に可能といわれており、私のつたない経験では、日本人は米国人より体が小さいので90%くらいの人には可能と考えています。我々は手術中に仮整復した時点で必ずレントゲンを撮り、きちんと手術ができているか確認し、納得したところで本物を入れています。これにより、少なくとも当院では大きな間違いを犯すことは無いと考えております。さらに、手術中にMISの続行が困難と判断したときは大きく開けることにしています。実際に術中に大きく開けさせていただいた方も、今のところ1人おられます。これが我々の目指す安全で確実な医療であります。

 
レントゲンを撮っているところ

仮整復しレントゲンを撮っているところ。正しく手術できているか確認を行ってから、本物を入れます。

問題ないことを確認

本物を入れた後、股関節を
動かしてみて、問題ないことを
確認して手術を終了します。

 

4. リハビリ病棟の提供

 最後に、MISによる人工関節の導入でほとんどの方が術後3週以内に退院することができるようになりましたが、誰もが早く帰りたいわけではありません。希望の方はリハビリ病棟にいっていただくことによって、術後2ヶ月くらいは本人が満足するまでリハビリ入院をすることができるようにしています。最近はいろいろな理由で長期入院が難しくなってきており、これ以上は入院できないから退院してくださいと言われて困っている、などという話をよく聞く悲しい時代になってきました。しかし、少なくとも当人工関節センターにおいては安心して入院していただけるように努力をしております。

MIS Training

2006年 チュラロンコーン大学(タイ、バンコク)で行われた、MIS Training でのひとコマです。常に世界のトップレベルの技術、情報を手に入れるべく努力しております。

MIS Training でのひとコマ

当人工関節センターの理念

<患者さまに優しく、かつ安全な高度医療を提供する>

 当院では、主としてMIS手術(小侵襲)を患者さまに提供可能な施設として、このスローガンを実践してまいりました。技術的には、引く続き医療の質を低下させることなくこれを実践するとともに、個々の患者さまに対して、外来、術前の身体状況の評価から入院、手術法、退院後の外来診察に至るまで医師、コメディカルが総合的に患者さまに対して、優しさを提供できるセンターでありたいと考えております。

当センターのめざす人工関節手術の特徴

 当院で主として行われる人工関節置換術は股関節、膝関節です。下肢人工関節手術は、年々増加の一途をたどっており、もはや初回人工関節においては、common surgeryとなりつつあります。その適応年齢層の低下とも相まって、今後は短期間で生じる感染、再発性脱臼や不具合、中長期的には、ゆるみ症例に対するサルベージ手術、再置換術の需要が増加することは欧米の報告を見るまでもなく明らかなことです。こうした現状を見据え、確実な医療を提供し周囲の方々に安心して頂けるセンターを目指したいと考えております。

人工股関節置換術

 セメントステムにおいては、セメント手技の改善とステム形状・加工の改良により、またセメントレスステムにおいても同様に、ことステムに関しては20年以上の超長期成績で語られる時代に入ってきています。人工関節手術において、最も大切なことは長期耐久性を見据えた正確な手術を行うことであり、このためには個々の患者さまの骨質の観点からみた適切な機種選択と、摺動面を考慮した治療が必要と考えています。 即ち、壮年期の患者さまに対しては、骨質の温存と低摩耗性摺動面(例えば金属対金属の摺動面)を考慮し、高齢の患者さまには、ハイブリッド型人工股関節などを適応することにより、確実な初期固定を得て早期機能訓練を行う、これが私の現在の人工股関節に対する考えかたです。

人工膝関節置換術

 人工膝関節置換術に関しては、現在では10年以上の長期経過において90%以上の耐久性は周知の事実となっています。私が、人工関節手術に携わってきました9年間においても、膝関節置換術においてポリエチレン摩耗や骨融解、無菌性ゆるみから再置換・再手術に至った症例はなく、其の原因は晩期感染や拘縮、骨折によるものです。当院で施行する膝関節置換術に特別な特徴はありませんが、軟部バランスのとりかたや、骨処理に至るまで私なりに、丁寧な手術を患者さまに提供したいと考えています。

MIS手術に関して

 MIS手術とは、10cm程度の小皮切で施行される手術法です。MIS手術といわれるものにはいくつかの方法がありますが、術後の疼痛の軽減や入院期間の短縮につながるという点に関しては専門家の間でも賛否両論があります。私見としましては、人工関節手術をMIS手術ありきで捉えることには抵抗があります。しかしながら、前センター長が行ってこられた筋非切離のアプローチは患者さまに優しい有用な方法と考えており、当院で行ってこられた業績を受け継いで、患者さまとよく相談しながら継続していきたいと考えております。

人工関節特殊例・再置換術に関して

 人工関節特殊例・困難例として、股関節では高位脱臼股・強直股・扁平股・各種骨きり術後、膝関節では、骨切り術後・高度変形膝・拘縮および強直膝がいわれています。また、感染例や再置換例を含めたいわゆる治療困難例といわれるものに対しましても、私の今までの拙い経験を生かしながら、積極的に取り組んでいきたいと思っております。


人工関節特殊例・再置換術に関して1
人工関節特殊例・再置換術に関して2

患者さまへ

5-1 人工関節置換術とは

 当院で、行なっています人工関節は、股関節・膝関節です。骨と骨とがつながっている動きのある部位を関節といいますが、通常この関節を構成する骨表面には、神経の存在しない、軟骨というものが存在します。軟骨は、いわばクッションの役目をしていると考えて頂ければよく、軟骨が十分に機能しているうちは、軟骨同士が擦れあっても神経が存在しないのですから、人は痛みを感じません。ところが、加齢や怪我、関節の病気により軟骨が変性、磨耗して機能しなくなりますと骨同士の摩擦が生じ、やがては関節の変形、痛みとして現れてきます。軟骨は、構造上複雑で繊細な細胞ですから、現在の医学では元の形に復元することは不可能です。

 人工関節置換術とは、薬物・理学療法などの保存療法が無効、もしくは関節温存手術が適応とならない方の最終手段として位置付けられる手術です。変形した骨や軟骨を取り除き、金属やポリエチレンなどの人工物に置き換えます。神経の存在しない人工物どうしで動いているのですから、人工関節手術は他の治療方法に比べて原則、短期間で痛みをとる効果に優れた手術方法といえます。

 

 問題点は、人工物であるが故の耐用年数にあります。一般に、その耐用年数は、15年から20年といわれています。そのため、今までは60歳以上を対象とした手術とされてきました。人間の平均寿命も延びてきてはいますが、人工関節の寿命も材質の加工技術や手術手技の進歩、インプラントデザインの改良や選択幅の拡大により、20年以上の超長期成績で語られる時代となってきています。本邦でも、欧米のように質の高い生活を望む傾向になってきているため、40~50歳台でも、他に効果的な治療方法がない場合は人工関節がとりうる選択肢の1つとして行なわれるようになってきています。

人工関節置換術とは

5-2 人工股関節置換術

 股関節は、骨盤と大腿骨をつなぐ非常に大きな動きをする臼状関節です。からだの一番中心にある大関節ですので、この部位に障害を生じると歩くことのみならず、腰や膝も被害者となり腰痛や膝関節痛、変形の原因となります。

 人工股関節置換術の対象となる病気は、変形性股関節症、大腿骨骨頭壊死、関節リウマチなどです。症状としては、変形した骨盤臼蓋と大腿骨骨頭の骨どうしの直接の衝突や、骨破壊によって生じる足の付け根から太腿前面にかけての痛みや可動域制限(例えば、靴下がはきにくいとか、胡坐がかきにくいなど)があげられます。このような症状を有するかたで、日常生活にお困りのかた、もしくは薬物療法や運動療法で改善の見られない場合には人工股関節置換術の適応となります。

 人工股関節置換術は、形の変形してしまった臼蓋、大腿骨骨頭などをすべて形成・切除します。形成した骨盤には受け皿としてカップ(素材は、チタン合金やポリエチレン)を、大腿骨にはステム(素材はチタン合金)が骨に固定されます。この2つを結びつけて、動く場所を関節面といい、骨頭ボールがその役目を担います。現在では、この関節面は、ポリエチレンと金属(コバルトクロム合金)、セラミックとセラミック、金属と金属の3種類が使用されていますが、神経の存在しない人工素材で動いている訳ですから、人は痛みを感じることが殆どないのです。また、カップやステムの骨への固定様式は、セメントを介して骨への鋲着をはかる方法と、セメントを使用せずに直接金属を骨へ咬みこませる方法の2通りが存在します。現在、日本での割合はセメント使用が3割、セメント不使用が7割といったところです。

 当院での人工股関節置換術の特徴・治療指針は患者様の年齢、活動性、骨質の3点を考慮して使用する人工関節の材質、固定方法を選択しています。即ち、比較的年齢が若く、活動性のある方では、金属と金属(コバルトクロム合金)で動き、セメントを使用せず、大きな骨頭ボールを用いた人工股関節を第一選択としています。金属同士のかみ合わせですから、すり減りが少ないのが利点ですが、この大骨頭を用いた人工股関節はまだ8年の結果しか得られていませんので、慎重に使用すべきものと考えています。逆に、高齢者で骨が非常に弱い人に対しては、大腿骨側のみをセメントで固定するハイブリッド人工股関節を行い、確実な初期安定性を得て早くから安心して歩行訓練に入っていただきます。一般には8~9割の方に、関節面にはポリエチレンと金属、固定方法としてはセメントを使用しない人工股関節置換術がおこなわれます。このポリエチレンは、無酸素下に電子ビームを照射してすり減りにくくした架橋結合ポリエチレンといわれるもので、20年以上の超長期耐久性が期待されています。

低侵襲人工股関節置換術:MIS-THA

 MIS人工股関節手術とは、10cm程度の皮切で人工股関節を設置する手術手技です。1998年、アメリカにおいて発表され、本邦でも行われてきましたMIS-THAは皮切のみの大きさを強調したもので、実際の手術操作は、従来行われてきた手技(筋肉切離型)と殆ど変わりがありませんでした。現在では、この手技はMini-Incision THA(小切開人工股関節置換術)といわれ、MIS-THAとは区別される傾向にあります。2004年、BertinとRottingerが筋肉を切らないで、人工股関節を設置する方法(筋肉温存型)を報告し、一般には術後の疼痛の軽減や早期回復がうたい文句となっていました。この方法は、本邦でもそれなりに普及はしてきましたが、そのとっつきにくさから爆発的な普及にいたっておらず、また機能修復の面でも従来のやり方と比べ優れているという明らかなエビデンスは得られておりません。

 当院では、これまで同様、適応のある患者さまに対しては、手技的にはこのMIS-THAを提供いこうと考えております。しかし、手術手技ももちろんではありますが、術前ケアーから、手術、看護、リハビリテーション、退院までを統括して患者さまに満足していただけることが、心身ともに早期回復につながるとの考えのもと、真の意味での“低侵襲”を指向したいと思っています。

MIS-THA1
MIS-THA2

5-3 人工膝関節置換術

 膝関節は、人の体の中で一番大きな関節であり、大腿骨(ふとももの骨)の下端、脛骨(すねの骨)の上端、膝蓋骨(皿の骨)の3つの骨から関節が構成されています。この関節には、歩行時には体重の約3倍、正座や階段の昇り降りでは約5~6倍の力がかかります。

 膝関節置換術の対象となる病気には、変形性膝関節症、リウマチ性膝関節症、大腿骨内顆骨壊死などがあり、いずれも何らかの原因により関節軟骨が破壊され、長年の間に骨の変形を生じてしまう疾患です。はじめのうちは、動き始め、或いは坂道や階段などの関節に多くの負担がかかってしまう状況下で痛みが生じます。病気が進行してきますと痛みが持続性となり、長く歩けなかったり、徐々に関節の動きが低下してきますので正座や胡坐ができないといった動作制限がでてきます。

 長年のうちには、骨の変形を生じ、9割以上の方が、いわゆるO脚を呈するようになってきます。先に述べました、股関節同様、こうした膝の変形は、腰痛の原因となったり、足関節にも影響を及ぼし、足首の変形、痛みにつながります。 膝の痛みは、膝蓋骨周辺が中心であったり、膝の内側であったり、更には膝の裏が痛いと言われる方もおられます。治療は、痛み止めなどの薬物療法、リハビリ(運動療法・物理療法)、装具療法などの保存療法がまず試されますがそれでも痛みが持続し、日常生活に支障のある方は、人工膝関節置換術が必要となる場合があります。

 人工膝関節置換術は、1970年代から普及してきた手術方法で、人工股関節と同様骨の変形したところを削り取り、大腿骨側には、コバルトクロム合金、脛骨側にはチタン合金からできた金属をはめこみます。この金属は、骨セメントを使って骨に錨着させます。股関節同様、この金属の間に、人工の軟骨ともいえる超高分子ポリエチレン(強化プラスチックと考えればよいでしょう)が挟まって関節を形造ります。人工膝関節による、恩恵は歩行時の痛みが劇的に改善されるのはもちろんですが、そのほかに、足の格好が正常に戻りますので、腰や足首への負担が軽減して痛みが軽くなることが挙げられます。

 人工膝関節置換術では、現在10年~15年経っても90%以上の患者様がやり直しの手術を必要とすることなく生活されています。3年以内の短期期間においてのやり直しの原因の殆どが、細菌感染にあります。当院における人工膝関節置換術においては、1)軟部バランスに重点を置いた、正確な設置、確実な手術 2)術前から退院後まで、患者指導を含めた徹底した感染対策の実施。この2点に重点に置いた治療を行なっていきたいと考えています。

人工膝関節置換術1
人工膝関節置換術2